1、プロローグ はじめに
今月の月刊精神分析 2009年03月号 は 「随筆 精神分析」と題して、ラカン精神科学研究所と月刊精神分析編集部 共著でお送りします。
ある日ある時
下の娘と一緒に食事を摂って洗い物をしていると不意に研究所の電話が鳴った。
「はい、ラカン精神科学研究所です」・・・
いつもの様に電話にでた私に、心の病を抱えた人やその家族、近親者が、病気の症状や状況を話し始める。
この電話の主はFさん40歳の母親、息子が高校を中退し引きこもっているとの事。簡単に相談内容を確認し、来所のアポイントメントをとってもらって電話を切った。
私は精神分析家(インテグレーター)、宣照真理(せんしょうまり)といいます。
滋賀県大津市に住み、二女の母、心の病を治療する精神分析療法をおこなっています。

ラカン精神科学研究所は、琵琶湖の南西端に位置する静かな町、大津市の唐崎というところにあります。滋賀県と言っても大津市は京都市から約10キロしか離れていません。JR京都-山科-大津京-唐崎と3駅で着いてしまいます。大津は滋賀県の県庁所在地ですが、京都の衛星都市として発展してきました。京都のベッドタウン的な顔も持っています。
研究所は京都市や九州の福岡市に支所を開設しています。
近年、私の研究所は「京都府の引きこもり支援団体」にも登録していて、各種の公的なイベントの支援協賛もしています。
今回は思いつくまま、随筆的に精神分析の事を語ってみたいと思います。事実にもとづいたフィクションと思っていただいて結構です。
2、精神分析家とは?
私が精神分析(治療)に携わってはや10年が経ちました。
精神分析とは、簡単に言えばクラアントの心の病や悩みを対話療法で治すもので、欧米ではセラピーやセラピストの存在は広く知られており、著名人には専属のセラピストがいたりするのだが、残念ながら日本ではまだそこまで認知されていません。
映画ファンの皆さんは、
【アナライズ・ミー】(1999)ノイローゼになったマフィアのボスと強引に彼の主治医にされた精神科医のおかしな関係を描いたコメディ。
【シックス・センス】(1999)ブルース・ウィリスが精神科医になって、死者が見えるという少年との交流を描いたサスペンス映画。
・・等を思い出して頂けければ宜しいかと思います。

3、精神分析家と精神分析医の違い
私は精神分析家であって精神分析医ではありません。精神科医は国家試験に合格した医師であってお薬を出せますが、私は分析家であって医者ではありませんので対話療法で心の病を治療します。
精神分析を行う精神科の医師が精神分析医です。
歴史的に「お上」に逆らわない「農耕民族」、「長いものには巻かれろ」を美徳とする日本人的な感覚すると、権威的な医者や医療機関の方が信用できるような印象を持たれるかもしれませんがかならずしもそうではありません。
権威主義な方は、どこの大学の心理学科を出たかと聞かれることがありますが、当研究所のホームページ等のプロフィールにもあるように、子育てに悩み私が分析を受け、後に精神分析の理論を学び、現在に至ります。
十年のキャリアと積み上げた症例体験から自信をもってお伝え致します。^^
4、精神分析と無意識
日常でも「無意識」という言葉を頻繁に用います。さて「無意識」とは何でしょう?そして「無意識」は私達にどんな影響を及ぼしているのでしょうか?
精神分析を語る上で「無意識」は避けて通れませんので、解説します。出来るだけ平易な言葉と日常の事柄で説明します。

精神分析はフロイト(オーストリアの精神科医)によって創始されました。20世紀の思想界へのフロイトの最大の貢献は「無意識の発見」です。フロイトは「人間の行動を決定するのは、その人すら知らない無意識である」といいました。
「無意識」を私自身の分析での体験を例にして解説します。
15年前、精神分析の世界を知る前の私は、子育てに悩む平凡な主婦でした。当時、上の娘が8歳、下の娘が5歳、私は35歳。子育ての悩みを思い起こせば、私は実母との関係が上手くいかず、「自分はあんな母の様にはなりたくない」「自分の子どもは優しく伸び伸びと育てたい」と思いながら娘を育てていました。ところがある時、気が付いたら、自分は母と同じことを娘達にしている事に気が付いて愕然としました。家業の店番、家事、買い物・・・自分が決めたスケジュールに子どもを組み込み「ああしなさい、ダメダメ、こうしなさい、はやくはやく」と命令指示し追い立て、私も子どもも疲れ果てていました。自分は、子どもの為と思い口やかましく言っている。でも自分の思う通りに子どもが動かないとイライラして子どもに手さえあげている。当然、子どもの表情は決して明るくない。なぜ?どうして?一体どうしたらいいのだろう…と悩んでいました。
結果的には、その「悩み」が私を精神分析の世界へ導いてくれました。
悩みを相談したのが、私の精神分析の師匠、大沢先生だったのです。
大沢先生のセラピー(精神分析)を受けてわかった事があります。それは(それが)、私の無意識です。
「無意識」は、意識しない(できない)から無意識なのですが、セラピー(精神分析)によって、意識化できます。精神分析の世界で言う「無意識の意識化」です。
私の意識はこうでした。
「私は、子どもが好きで、結婚したら子どもを持つことが当たり前」だと思っていました。
ですが、実は、私の無意識はこうだったのです。
「私は、私の言う事を聞いてくれる子供が欲しかった。自分の思い通りに動く子どもが欲しかった」・・残念ながらこれが私の無意識です。
では、この私の「無意識」はどうやって形成されたのでしょう?

ここで、45年前の私と私の母の関係を振り返ってみます。
私の子ども時代の記憶を掘りこしてみると・・・。
私の母は小学校の教師でしたので、私が朝起きても母は家にはいませんでした。私はいつも独り寂しく過ごしていました。私の世話は祖母がしていたと思います。母に世話された記憶はありません。大事にされた記憶もありませんし、私は母に嫌われていると思っていました。
ある日、小学校に上がる前の幼稚園の頃だったと思います。
夕食の支度をしている祖母。私はその傍らでセルロイドのお人形で遊びながら母の帰りを待っていました。当時、流行った横にすると目を閉じるセルロイドのお人形です。金髪で・・よく着せ替え遊びをしていました。あまりオモチャを買ってもらった記憶は無いのですが、何故かそのお人形の事だけは覚えています。
夕方、帰宅した母の口から出た言葉は「おばぁちゃんを手伝いなさい」。私は私の期待を裏切った母の言葉を無視しました。待ちわびた母が帰ってきて甘えたかったのに、それとは違うことをしろという母への抗議のつもりだったのでしょう。いきなり母は平手で私の頬を打ちました。泣いている私に祖母は「手伝わんから打たれるんやで」と言いました。私の味方をしてくれ、かばってくれる人はいませんでした。

おそらく日常的に、忙しい母にまとわり付き、甘えることはできなかった。ここで、私の中に無意識が形成されました。抑圧された欲望は心に無意識として刻まれます(無意識下への隠匿)。私の場合は、母に甘えたいと言う欲望があったのにも関わらず、「甘えたい」という欲望は、母からも祖母からも満たされず抑圧され、私の心に無意識下にしまわれました。。私は満たされなかった私の甘えたいという欲望を抑圧し、心の中に無意識として刻む事によって隠匿したのです。「母の愛」を甘えたいという欲望が満たされる事で獲得する筈だったのですが・・・。
また、両親、さらに祖母も命令指示が多く、私は「子どもは親の言う事ときくものだ」と言われて育ちました。そんななかで、親がはじめた宗教に無理やりつき合わされ、「嫌だ」と言えば、この家にはいられないと感じてしました。
教師である母から、「あんたはダメだ」「勉強ができない」「片付けができない」とダメだしの連続でした。
私の甘えたいという欲望が満たされ、言いたいことが言えていたら、それは満足感となり自己肯定感を形成し、私の心の自我を育てた筈です。残念ながらそれとは逆の、自己否定感を持ってしまいました。
さて、長い年月を経て、私は両親に勧められるままに結婚し、子どもが欲しいと思い妊娠出産しました。
私自身、意識上は「子どもが好き」と思い結婚妊娠出産した筈なのに、当時の私は、自分の母に子供時代にされた事と全く同じ事を我が娘にしている。現実に「子育ては面倒」で「あれせい、これせい」と指示命令・・まさしく、私が子どもを見る目は、私の母が私を見る目そのものでした。
大沢先生は私をこう分析されました。
「我が子を明るく伸び伸び優しい子どもに育てたい」という当たり前の意識の裏側で、あなたの無意識は、「子どもを持ちたい、そして今度は子どもを自分の思い通りに動かしたい」と思っている。・・そして、あなたはその無意識に支配されています。
私の無意識がプリンターから印刷されて出てきたわけではありませんが、先生に指摘された通りの自分の行動を目の当たりにし、私は納得するしかありませんでした。この時点で、私の無意識は私自身に意識されました。これが「無意識の意識化」です。
ただし、人の心を支配している無意識の書き換えはコンピュータープログラムの書き換え(リライト)の様に瞬時にはできません。日々、自分の無意識を意識して行動する事によって徐々に書き換わっていきます。中には、比較的スムースに無意識の書き換えができる方もおられる様ですが、私の場合はテーマが娘達とのかかわりであった為に、数年の時間を要しました。
あと、大沢先生が指導された子どもへの接し方(育児法)は、「オールOK!子育て法」と言います。簡単に言うと「子どもの言う事に全てOKし、待った無しに言われた通りにすぐ動く事」というものです。初めてきかれた方は必ずと言っていいほど「子どもをそんなに我侭にしていいのですか?」と言われます。この子育て法は、心理学的観点でいうと子どもの「自我」を育てる養育法です。言葉にすると簡単な様ですが、これが私には大変難しい事でした。なにしろ自分が親からされた事が無い事を子どもに施すのですから。毎日葛藤の日々が始まりました。
私は心底、心に刻まれた無意識は簡単に変えられない事を痛感しました。「子ども時代は親から言う事をきくように強制され、親になったら子どもの言う事きくように指導される」こんな理不尽な事は、いくら無意識を指摘・解説されても受け入れがたい面がありました。「私はいつ?誰に?言うことを聴いてもらえばいいの?」自分の中からはこんな心の叫びが聞こえてきました。
しかし、このままでは、今度は私の娘達が、また同じ事を繰り返してしまう。
母から娘に、その娘の子どもに・・と、連綿と「支配する支配される」(支配と服従)の親子関係が何代にも渡って続いてしまいます。これを、世代間連鎖と言います。私の場合は悪いほうの世代間連鎖なので負の世代間連鎖です。日本風にいえば「親の因果が子に報い・・」という見世物小屋の呼び込みフレーズと同じことです。
私は決心しました。その負の世代間連鎖を私がくいとめる・・そして、それが私のアイデンテティー(自我同一性:かく在りたい自分とかく在る自分が一致する事)となりました。
あの時から15年が経ちました。途中、上の娘は2年間私と口をきかなかったり、下の娘は小中学校を引きこもり気味で過ごしたものの、今は、元気で明るく過ごしています。気がつけば上の娘は服飾関係の専門学校を卒業予定で就職活動に突入。下の娘は昨年、成人式を迎えました。「私と私の娘達の関係」は、確かに「私と私の母」との関係とは違ったものになったのです。更に、私自身も精神分析家として独立開業し10年目を迎え更に飛躍しようと頑張っています。
以上は私の拙い体験ですが、人の心や行動を支配する「無意識」が少しは理解できましたでしょうか?
5、精神分析と自我
「自我」という言葉があります。あの人は「我」が強い等と言う時の「我」、そのまま呼んで我(われ)、自分という事ですが、精神分析の世界では、「Es(エス)」「自我」「超自我」の三つの関係に於いて語られます。
インターネット百科事典のWikipediaを参考に書いてみました。
○「Es(エス)」は無意識層の中心の機能である。また感情、欲求、衝動をそのまま自我に伝える機能である。エスは視床下部(本能行動や情動行動の中枢)のはたらきと関係があるとされています。
嬉しい!寂しい!のどが渇いた!お腹すいた!セックスしたい!暑い!寒い!等、自然とわきあがってくる動物的な欲求と言っていいと思います。
○「自我」は意識層の中心の機能である。「Es(エス)」からの要求と「超自我」からの自己の規制を受け取り、感情を現実に適応させる機能である。
例)「自我」は「Es(エス)」によって伝えられた「のどが渇いた!」という欲求を①水を飲む!②ジュースを飲む!③お酒を飲む!等によって現実適応させようとします。
しかし、ここで「超自我」によって自己規制が伝えられます。
これから車の運転をしなくてはいけないから③お酒を飲むのはNG。最近、血糖値が高いから②ジュースを飲むのも控えよう。今回は、消去法で①水を飲む!を選択しよう。
こんな感じで、自我は「Es(エス)」と「超自我」の綱引きで左右される存在であると言えます。
○「超自我」は上の二つの層をまたいだ機能で、ルール、道徳観、倫理感、自己の規制を自我に伝える機能を持つ。この機能がエスや自我を強く押し付けているとき、自我がエスの要求を通すことができずに防衛機制を働かせることがある。超自我は前頭葉のはたらき(現在の行動によって生じる未来における結果の認知や、より良い行動の選択、許容され難い社会的応答の無効化と抑圧、物事の類似点や相違点の判断に関する能力)と関係があるとされています。
こんな事をしたら他人の迷惑にならないか?犯罪行為にならないか?いけない事ではないか?等の抑制、抑圧等。
分かり易く例えると、車の運転で言えば「Es(エス)」はアクセル、「超自我」はブレーキで例えられます。「自我」はクルマの車体です。人間の場合、アクセルを踏みながら同時にブレーキも踏む様な事をしていますので、自我というクルマの車体にも相当な負担がかかります。人生という過酷なレースを走りぬくためには、強力な「自我」車体に強力な「Es(エス)」エンジン&アクセル、そしてそのエネルギーを適時適度に加減する「超自我」ブレーキが必要なのです。
さて、子育てする中で「自我」を育てるという記述が頻繁に出てきます。この場合の「自我がしっかりしている」とは、周りの環境に影響を受けずに、自分で行動が決められるという事です。そして、自我の役割は、エスの持つ欲望を社会の中にマッチさせながら叶えていくことです。
6、子育ての観点から自我を語る
先述した育児法「オールOK!子育て法」は「子どもの言う事に全てOKし、待った無しに言われた通りにすぐ動く事」でした。母親がオールOKすると、「Es(エス)」欲望がどんどん自我に供給される。まず出すことです。欲望を出すことも学習です。母は子どもの要求に応えましょう。子どもは活き活き動き出します。自己肯定感が養われます。僕はOK。私もOK。子どもは王子様お姫様になります(三歳位まで)。上記の例えを使えば、まず人間には生きる本能としての「Es(エス)」というエンジンが備わっています。そしてそのエネルギーは母のOK!によって培われた自己肯定感によってスムースにパワーを自我へ伝えます。最初から「ダメ」「ダメ}と言われたのでは、「Es(エス)」というエンジンのパワーを自我へ供給できなくなってしまいます。
四歳位になると、父が登場し子どもに社会規範を教えます。世の中のルール、掟の理解。これが「超自我」を養う事になります。「超自我」という適時適当適切なブレーキは父性によって養われます。このとき、威嚇と暴力を使ってはいけません。
「Es(エス)」と「超自我」の綱引きが始まり、バランスのとれた「自我」が形成されるのです。
7、引きこもりは、母親の支配か放任
では、「引きこもり」はどうなのだろう?私が見てきた症例では、圧倒的に「母の支配」または「母親の放任」がその原因であるように思います。

○母の支配が原因で引きこもる
「あれしちゃダメダメ。これもダメ。」で育っているので「超自我」が肥大している。自分の主体性というものがなく、母親の「自我」で子どもが動いている。これでは、独り立ちをして社会の中に巣立っていく事は到底できない。
会話は常に母から子どもへの一方通行で会話になっていない。子どもは気持ちを理解せれることがなく、どうせ言って物無駄だとあきらめてしまう。これでは、子ども同士で会話ができる筈もなく、友人関係が構築できない。
私の下の娘もこのパターンで高校入学の研修会の帰り「思うように友達が出来んかった」と泣いていました。「この子なりに友達が欲しかったのに、うまくいかなかったのか」と思いながら肩を抱いて帰ったのを覚えています。
○母の放任が原因でひきこもる
ほったらかしの為に、「Es(エス)」というエンジンのパワーを自我へ供給できなくなっています。
何をしても聞いても反応がない、また、親子の関わり自体が少ない場合。反応がないということは、自分を映し出す鏡がない状態で、子どもは透明な存在になってしまいます。分析治療をしようにも会話(対話)が成立しないので、「これは無理かな」と思うほどの症例がありました。「どうして母親はこんなになるまで子どもに関わらなかったのか?」と思うくらい。人の心は勝手に育つ事はないのだなと痛切に感じる瞬間です。
8、精神分析と心の病
私の心の悩みは、子育てのイライラ、悩みと言う形で現れましたが、ストレスの多い今の世の中で多忙な社会生活を営んでおられる方々は、それこそ大変な悩みを抱え人知れず心療内科や精神科に通い服薬しながら眠れない日々を過ごされている方が沢山おられると思います。
「抑圧によって無意識に押し込められた欲望や観念はエネルギーを保持し続け、抑圧の力に抗して表現される場合、種々の症状となる」と言われています。
私の研究所のサイトのキャッチフレーズの一つにこういうのがあります。
「無意識を変える!運命が変わる!」
運命とは決められてものではなく、自分で切り開くものです。
分析は、「今、ここに」をいいます。多くの迷いや悩みを抱えた人、病んだ人たちは今がなく、過去に生きています。今という時制が存在しなければ、時間系列の区切りがなく、過去と未来の区別がありません。
先述しました様に、人間は必ず生まれ育った過程や家庭環境によって刻まれた無意識に左右されて生きています。それは、好みの異性のタイプに反映したり、その時々の心理状況や行動パターンにまで影響を及ぼします。程度の差こそあれ人は無意識の呪縛からは逃れられないし、自分自身で自分の無意識を意識することはできないのです。鏡やカメラを使わないと自分で自分自身の姿をみる事ができないように。
精神分析はこの「無意識」にスポットをあて、分析し、書き換え、再統合(インテグレート)するのです。精神分析家をインテグレーターと呼ぶのはこの統合(インテグレーション)から来ています。
9、心の病と薬物について
心の病を治す事について薬物使用に関して私の考えを述べます。

私に寄せられるクライアントからの訴えを紹介すると・・
Aさん:パニック障害と診断されたAさんが精神科に行くと。眠れないと言うと睡眠薬を渡される。不安だと言うと安定剤を渡される。気分が冴えないと訴えると抗うつ剤を渡される。それで、一時的に症状が和らいでも心の病は完治する事なく、通院服薬が続く、そうなると今度は薬の副作用が気になりだす。薬がないと眠れない、不安、気分が冴えない・・数えてみると10種類以上の薬を飲まされていました。このままでは心が薬物依存症になってしまう。
Bさん:精神科医から「何か見えたり聞こえたりしませんか?」と聞かれ、「はい。そういえば、見えたり、聞こえたりします」と答えると、幻聴幻覚ですねと言われ統合失調症=精神分裂病と診断され、強い薬を飲まされる事もあるそうだ。強い薬というのは、「よだれが止まらない」「一日中頭がぼーっとする」「昼間からイビキをかいて寝てしまう」「体重がどんどん増えてくる」など。
精神科医は、病院経営的な観点から言っても、対話療法のみで心の病を治すのは得策ではなく、検査や投薬による治療になってしまうのは想像できる。彼らが限られた診療時間の中で患者の心の病をどこまで分析できているのか?私にはわからない。また、患者も心的不安を抱え薬物に依存してしまう構造もあるのかもしれない。それは何れにしても、心の病を本質から治す事にはならないと思う。
これだけ医学が発達したとされる世の中でも風邪の特効薬は存在せず、巷に流通しているのは風邪の諸症状を緩和する薬なのだ。それと一緒で、心の病も特効薬は存在せず、精神科で出される薬も所詮心の病の諸症状を緩和する薬でしかない。風邪と違って心の病は、ゆっくり休養して睡眠をとれば完治する手合いのものではありません。
現実に、精神科や心療内科に通っている人の多くは、通院服薬しながら、今日の心のコンディションを気にしながら生活しているのが現実ではないだろうか?一旦は快復しても、何かのきっかけで再発する恐れに慄(おのの)きながら生活する事になる。
精神分析家は、薬や催眠を使わず、対話療法でクライアントの心の病を治す事を仕事にしている。心のスペシャリストです。
しかし、当研究所にこられているクライアントなかには、精神科や心療内科で処方された薬を飲んでいる方々もおられます。本人が飲んだ方が楽ならば、それを無理やり止めなさいとは言いません。クライアントの状態によっては、飲んだ方がいい場合もあります。しかし結果として分析により症状や不安などが軽減していき、薬が必要なくなることを目指します。
10、不登校・引きこもりについて
昨今、社会問題化している不登校・引きこもりについて・・
私には二人の娘がいます。下の娘は一時期「不登校・引きこもり」になりました。当時、私は精神分析家として活動を始めていたので、娘の「不登校・引きこもり」には適切な対応ができました。
精神分析の世界では、引きこもりをどのように捉えるかと言うと、
「主体性が抹殺されて自我が育たなかった人」と言えます。
そして、その彼(彼女)のあり方は、
言えない:言いたい事が言えなくなる。
出せない:感情(喜怒哀楽)が出せなくなる。
動けない:行動できなくなる。
となってしまいます。
私の分析の師、大沢先生は著書の中でこう書いています。
「人間の住む社会は、言語と文字に溢れている。洪水のようにメディアは、音と映像・活字を垂れ流して、人々を襲っている。この過剰な意味からの脱出以外に自分を取り戻す方法はない。孤独になることこそ救いである。これを病的に表したのが、引きこもりである。彼らは自己防衛として社会から撤退し、自分を守っているのである。」
引きこもり、登園・登校拒否、出社拒否・・正常な社会生活を営む事ができなく時期と、引きこもりのきっかけ(仕事や学業の行き詰まり、対人恐怖、精神的な体調不良、種種のストレスなど)は色々ですが、その原因を突き詰めていくと、彼(彼女)の「主体性の抹殺」「自我が育っていない」に行き着きます。
では、自我は如何にして育つのでしょうか?
それは、ずばり母の愛によって育つのです。
人は動物と違って、生れ落ちた瞬間から「母の庇護」無くして存命する事はできません。更に、人が最初に築くのは「母との信頼関係」です。以上の2点からも、人としての基本は母との関係によって構築されるのです。こういった観点から、心の病を抱える人の養育史や家庭環境をおききすると、必ず色々な問題が見えてきます。
今まで相談にみえられた母親の問題行動を列記すると・・・「ああしなさい」「こうしなさい」「それはいけません」と、命令指示が多い。親の価値観(良いと思うこと)を子どもに押し付ける。子どもの話をよく聴かない。子どもの気持ちを汲まないで、すぐ対策法を言う。 子どもを親のストレス、愚痴のはけ口にしてしまう。甘やかせてはいけないと厳しく育てた。 失敗を責める。など・・とても子どもの主体性や自我が育つはずがない状況が見えてきます。実を言うと私のその中(問題行動を持つ母親)の一人だったのです(前述済)。
では、その問題行動をする母はどう育てられたのか?これも分析をする過程で明らかになっていくケースが多いのですが、やはり問題のある養育史や家庭環境を垣間見る言ができます。
簡単に言えば、母から愛されなかった貴女。貴女は愛されなかったから娘を愛する事ができないし、愛し方を知らないから、愛せなくて当然なのです。祖母から母へ、そして母から娘へ、これは負の世代間連鎖であると言えます。
引きこもり・不登校で相談にお見えになった方の分析、その負の連鎖を断ち切る事への指導、アドバイスが私の仕事になります。
悩める母親に子どもへの対応法を教え、もし母親ができなければ母に代わって迷宮にはまっている彼や彼女の自我を育てる。関心を向ける、眼差しを向ける、一瞬も気が抜けない仕事です。地味な仕事ですが、彼や彼女の自我が育たない事には、言えない、出せない、動けないが永遠に続いてしまう。人の人生を左右する仕事だと認識しています。
ここで、学校制度に及言すれば、子どもの不登校をさほど問題視する必要はないと思う。自慢ではないが、私の下の娘は、小学校も4年から通わず、中学校は1年の半分から休み、中学校3年は丸々いって高校は無事卒業した。つまり、彼女の場合は、中学校3年の時点で学校に通える「自我」が育成できたのであろう。そして現在、小中学校を不登校(学校側からすれば明らかに問題児)して過ごした娘は、明るく生活している。
今、この瞬間、不登校の娘や息子を抱えて悩んでおられる親御さんは、なんとかしなくては・・という気持ちをお持ちでしょうが、焦って集団生活に耐えうる「自我」が育っていないのに、無理やり通学させて「いじめ」のターゲットにされて、自殺でもしたら、それこそ手遅れである。別に、小学校に行かなくても、中学校にいかなくても、りっぱな大人になる事は可能なのです。高校に通わなくても「大学入学資格検定」転じて高認があります。現実に、小中学校にいかなくても、学校に通わなくても独学で大学入試にパスして社会生活を営んでいる人は沢山います。今、この瞬間、小学校や大学に通っていない(通えていない)ことを負い目にして生活する必要はないのです。簡単に言います。発明家エジソンは登校拒否児童でした。
ただし、日本社会の場合、高校卒業して就業していないと、フリーターやニート的な立場に甘んじている事になり、年功序列的なシステムが色濃く残っている企業内で正社員として働くチャンスは少なくなってきます。自ずと引きこもり・登校拒否より出社拒否の方がリスクは高くなってしまいます。
日本社会の場合は、低年齢で引きこもった方が、より強固な自我を獲得できると言えます。高年齢で引きこもるより、低年齢の方が母親の意識も変え易く、子どもへの対応法を変える事も容易です。
小中学校での引きこもりの相談に関しては、「早くてよかったですね。今、軌道修正して子どもさんに自我を育成すれば、これからの人生は確実によくなります!」と言えます。
この文章をここまで読んで頂いた方は十分に前向きな気持ちがあると思います。私達、精神分析家が危惧するのは、諦めてしまう事です。社会資本が充実し、治安にも恵まれた日本に生まれ、自分の主体性のもと努力してチャンスを掴めば成功する環境があるのにも関わらず、自ら我が子の可能性の芽を摘み、暗い牢獄につないでしまうことになってはいませんか?諦めなければ、何歳からでも育て直しは可能です。諦めないで下さい。
11、出張セラピー

JR唐崎駅から湖西線で京都へいく。滋賀から京都ときくと凄く遠くに感じられるが実際にはわずか15分である。ちょっとした考え事をしているとあっという間に着いてしまう。
今日の出張セラピーはDさんのセラピーである。Dさんは、高校時代に引きこもりそれっきり社会生活ができないで現在に至っている。Dさんの母親からの依頼で、外出できないDさんの為に私が家に出向いてセラピーをしている。
Dさんのセラピーを始めた頃の事は今でも覚えている。
何を聞いても返事らしい返事が返ってこない。

精神分析は対話療法なので会話が成立しなければ治療にならない。これは無理かな?と思うほどだった。根気強くDさんに関わった。「これはYES?NO?」まるで、三重苦のヘレンケラーに言語を教える様な対話になった。今更ながらに、これほど子どもに関わらないということがあるのだろうかと思った。定期的にセラピーを続けた結果、今のDさんは、スポーツジムや、音楽教室に通うまでになった。DさんはDさんのしたい事をみつけ、それを行動に移すことができるようになった。
これから先、Dさんは高認受験も可能であるし、高認試験にパスすれば、大学や専門学校への道も開ける。ひょっとしたらDさん隠れた才能が開花するかもしれない。
Dさんは精神科の先生も驚くほどの変容を遂げた。
睡眠薬や安定剤を使わなくてよくなればいいと思っています。
ラカン精神科学研究所では、交通費を負担していただければ全国どこでも出張致します。
12、インターネットと精神分析
朝起きてパソコンの電源をいれる。最初にするのはメールチェック。遠地にお住まいのクライアントから数件のメール相談が届いている。
新着メールの中に「サイトみました」のタイトルのメールがみえる。
クリックして開いてみると・・近畿圏外の女性からのメールだった。
「はじめてメールさせて頂きます。よろしくお願いします。昨年より高校生の娘が引きこもってしまいました。自分の育て方に至らないところがあったのかもしれないと悩み、色々なサイトを調べているうちに、こちらのサイトを発見しました。是非ご相談したく、メールを書いている次第です。直接カウンセリングを受けたいのですが・・」
遠地からの依頼で私への期待も感じられる。早速、返信メールを送信した。
ここ10年位の情報産業の一般家庭への浸透ぶりはすざましく、小中学生にまでネット接続できる携帯で電話が行き渡り、仕事をする上でネット接続できるパソコンが手放せなくなった人も多いのではないでしょうか?
ラカン精神科学研究所も、比較的早くネット上にサイトを開設し情報を発信してきました。研究所を設立した当初は、広告宣伝活動はNTTの電話帳の小さな広告を掲載していただけでした。限られたスペースで、精神分析を理解していただくことは難しいと思いました。その点ホームページやブログで、情報を発信し、それを見た子どもさんに言われて電話等で連絡をいただくケースが多いことにまた驚きと、満足を感じています。
先述しましたように、精神分析が日本で認知されておらず、小さな広告枠の中では伝えたい事を伝えるのもままならなかったので仕方なかったのかもしれません。
ところが、サイトを開設してから半年位して電話やメールで問い合わせを頂ける様になりました。相談内容も多岐に渡り、相談者の住所も近畿圏をもとより北は関東、南は九州まで広いエリアに及びます。
定期的に分析を依頼されるクライアント、引きこもりの子どもさんへの出張セラピーを希望されるおやごさん、分析理論を学ばれている学生さん、沢山の人たちとの出会いを提供してくれました。
Skypeは全国に散らばっている分析家仲間と話す時に重宝しています。
Youtubeは、動画公開できるので、簡単な私の動画ご挨拶を公開しています。
私の様に、個人事業として精神分析家をしているものにとってインターネットは大きな力になりました。これからもメールやSkype、Youtubeなど、提供される便利な機能はどんどん活用して、精神分析を広めていきます。
13、精神分析 セラピーの実際

それから数日して、約束の日にFさんがラカン精神科学研究所を訪問された。
「どうぞ、お入り下さい」
「初めまして、先日お電話しましたFです」
「宣照です。どうそこちらへ」
Fさんをセラピールームに案内した。セラピールームといっても、和室にローテーブルと観葉植物を置いただけの部屋である。
「どういう事でお悩みでしょうか?なんでもどうぞ」
「24歳の息子の事なのですが、中学校の時に既に、学校に行き渋りで、高校1年で学校を中退しまして、高卒認定試験を合格して、大学に合格したものの、入学した年の5月で辞めてしまいました。それ以来、引きこもったままになって現在に至っています。4年間引きこもった状態です」

私は、Fさんに、お子さんを身ごもった時の状況(家庭環境など)10月10日間の妊婦の成人状態はどうだったか?出産時の状況(安産 OR 難産)。今まで大きな病気、事故が無かったか?1歳未満で高熱、股関節脱臼、ひきつけ、痙攣、肺炎が無かったか?などをきいた。
Fさんは「息子が、どうしたら引きこもりから脱却できるのか?」をききたいのに、なぜそんな昔の事をきくのか?という顔をしています。
もちろん、それは「人としての最初の人間関係」である「母子関係」を知るための作業です。数回、セラピーを続けていただければ自然とわかってきます。
引きこもり相談の場合、ラカン精神科学研究所では、引きこもった息子さんや娘さんを学校に戻すことを治療目的とはしません。本人が好きな事を見つけて活き活きと生きていけるようにする事が目的です。

勉強を強要しない。バイトも強要しない。仕事も強要しない。引きこもった息子娘さんが、
言えない:言いたい事が言えなくなる。出せない:感情(喜怒哀楽)が出せなくなる。動けない:行動できなくなる。・・が解消し、言った!出せた!動けた!となるので、結果として引きこもり状態から脱却するだけの事です。
Fさんも、息子さんが中学の時に学校を休ませて適切な対応をしていれば・・4年も引きこもらずに済んだのに・・と残念でなりません。息子さんが中学の時に既にサインは出ていたのです。
その後の親御さんの対応も「お払い」をしてみたり「風水占い」、公的なカウンセリングで更に子どもの自尊心を傷つけたり、催眠療法も試されたようです。それて余計に荒れたり、反抗的になったりと、精神分析理論を学んだ私からすると、それらの施策で、とても子どもの自我が強固になるような気がしないのですが、親御さんにしてみれば藁をもつかむ心境なのでしょう・・色々試される様です。所謂、ドクターショッピングという行為です。
私は先述の「オールOK!子育て法」をご指導します。丁寧に説明し、親御さんも納得頂けます。残念ながら、子どもを牢獄に入れてしまったのは親なのです。息子さん娘さんに罪はありません。親御さんは、子どもの主体性を発揮させ、自我を育てる事ができるでしょうか?
(つづく)
14、エピローグ

おわりに
今月の月刊精神分析はいかがでしたでしょうか?
精神分析家の日常を随筆的な構成で書いてみました。
もちろん、現実に分析を受けているクライアントの症例を公にする事は絶対できませんが、私が十年に渡って精神分析をし、色々な相談を受ける中で、現実に起こりうる例を表現しました。
ご意見ご感想は、
月刊精神分析編集部までお寄せくださいませ。参考にさせて頂きます。
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平成21年03月27日
精神分析家(インテグレーター)宣照真理(せんしょうまり)
月刊 精神分析 編集部
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